07-データサイエンス

データサイエンス(Part.11)|MMMと準実験

目標

MMMと準実験の関係について理解する

MMMと準実験

「マーケティングミックスモデリング(MMM)」と「準実験(quasi-experiment)」は、どちらも マーケティング施策の効果を因果的に推定するための手法 ですが、アプローチが異なります。

マーケティングミックスモデリング(MMM)

アプローチ:主に回帰分析などの統計モデル を用いて、売上などのアウトカムと施策(広告費・価格・販促など)の関係を推定します。具体的には、長期的なデータ(数か月〜数年)を使い、「このチャネルが売上にどの程度寄与しているか」を推定するなどです。

特徴:マクロ視点(売上全体 vs 各施策)からオフライン施策(TV、紙媒体など)も含めて効果を分析できます。データの粒度は「週単位」「月単位」など比較的粗いのが特徴です。

これまで確認してきた分析手法はMMMを実行・補強するための分析ツールでもあります。

  • 回帰分析 → MMMの中心にあるメイン手法(売上を説明変数、広告費などを説明変数にする)。
  • 相関分析 → 変数同士の関連の強さを確認する前処理に利用。
  • ロジスティック回帰 → 目的変数が「購入する/しない」など2値のときに応用可能。
  • クロス集計 & カイ二乗検定 → 広告接触と購入有無などカテゴリデータの関係をチェック。
  • t検定 / ANOVA → グループ間で売上や購入率に差があるかを検証する補助分析。

準実験(Quasi-Experiment)

アプローチ:ランダム化比較試験(RCT)が実施できない状況において、統計的な工夫により因果関係を推定する方法です。

代表例: 差分の差分法(DiD)、傾向スコアマッチング、回帰不連続デザイン、合成コントロール法など。

特徴:施策実施群と非実施群を比較して効果を推定します。ミクロ視点(特定キャンペーンや特定地域、特定顧客セグメント)で、データの粒度は「顧客単位」「日次」など細かいことが多いです。

ランダム化比較試験とは介入(例:新しい薬やキャンペーン施策)が本当に効果があるかを調べるための実験方法です。例えば、被験者(または顧客)を ランダムに2つ以上のグループ(介入群、対照群)に分けたとします

  • 介入群(処置群):新しい薬を投与/新しい広告を見せる
  • 対照群(コントロール群):従来の薬/広告なし

その後の結果(回復率・購入率など)を比較し、効果を統計的に検証する方法です。

RCTの事例

医療分野(もっとも典型的なRCTの場面)

  1. 新薬の効果検証
    • 被験者をランダムに「薬を投与する群」と「プラセボ(偽薬)群」に分ける。
    • 例:高血圧治療薬の臨床試験 → 実薬群の血圧低下効果を検証。
  2. 新型コロナワクチンの臨床試験
    • 数万人の被験者をランダムに「ワクチン接種群」と「プラセボ群」に割り付け。
    • 発症率の差からワクチン効果を推定。

👉 医療ではRCTが「ゴールドスタンダード」とされています。


公共政策の事例

  1. 教育支援プログラム
    • 生徒をランダムに「補習授業を受ける群」と「受けない群」に分ける。
    • 学力テストの差から補習の効果を検証。
  2. ベーシックインカム実験
    • 一部の地域や住民をランダムに選び、無条件の現金給付を行う。
    • 就労意欲や生活の安定度を比較。

マーケティングの事例

  1. A/Bテスト(広告メール)
    • 顧客をランダムに2群に分け、片方には新デザインのメール、もう片方には旧デザインのメールを送信。
    • 購入率やクリック率の差を比較。
  2. Webサイトのデザイン比較
    • サイト訪問者をランダムに「新UI群」「旧UI群」に割り付け。
    • 滞在時間・購入完了率を比較。

👉 マーケティングでは「A/Bテスト」が、RCTのビジネス応用例そのものです。

RCTの流れ(例:マ―ケーティング)

1. 基本の流れ

  1. 目的を決める
    • 例:広告メールの「購入率を上げたい」
  2. 施策を2パターン用意
    • A: 従来のメール
    • B: 新しいデザインのメール(割引クーポン付きなど)
  3. 顧客をランダムに2群に分ける
    • ランダム化により、性別・年齢・購買力などのバイアスを平均化
  4. メール配信 → 購入率を比較
    • 購入したかどうか(0/1データ)を集計し、統計的に差を検証

具体的な例

  • テスト設計
    • 対象顧客:10,000人
    • A群:5,000人に従来メール送付
    • B群:5,000人に新メール送付
  • 結果データ
配信人数購入人数購入率
A群5,0002505.0%
B群5,0003507.0%

分析

  • 差:7.0% − 5.0% = 2.0%
  • カイ二乗検定 / z検定 / ロジスティック回帰 を使って「差が偶然かどうか」を統計的に検証
  • p < 0.05 なら「新メールは有意に効果がある」と判断

応用パターン(PDCAサイクルを回しながら改良)

  • Webサイト改善
    • A: 旧デザイン
    • B: 新デザイン(CTAボタンを目立たせる)
    • 比較指標:購入完了率、クリック率、滞在時間
  • 広告キャンペーン
    • A: テキスト広告
    • B: 画像つき広告
    • 比較指標:クリック率(CTR)、コンバージョン率(CVR)

注意点

  • サンプル数が小さいと差が偶然に見えることがある(検出力不足)
  • ランダム割付が偏ると結果がゆがむ(乱数割付やツール利用で防止)
  • 複数回テストを繰り返すと「多重検定」の問題(p値が偶然有意に見える)

MMMと準実験の関係

共通点

どちらも「施策が売上や行動に与えた効果」を推定するための手法で、データドリブンマーケティングのひとつです。

違いとして、MMMはマクロ分析(全体最適)、準実験は ミクロ分析(特定施策の因果効果)のとらえ方があります。双方ともメリットとデメリットがあり、MMMでは、全体のROI把握、予算配分 を強みとしていますが、因果推論の精度が限定的(共変量の制御に依存)という弱点があります。対して、準実験では、全施策を一度に俯瞰するのは難しいという弱点がありますが、特定施策の因果効果を精緻に測定できる強みがあります。

補完的な使い方

実務では、

  • MMM → 全体的な予算配分のガイドラインを作る
  • 準実験 → 個別キャンペーンや特定チャネルの効果検証

というように 併用されることが多いです。例えば、MMMで「TV広告が売上の20%に貢献」と分かったとしても、「特定地域でのスポットCMは本当に効いたのか?」は準実験で検証する、という使い分けです。

今回は以上となります。

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